DESIGN PUBLIC

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INTRO

magazine for select your life

「DESIGN PUBLIC」では、
社会の中で価値が見出されていなかった物事を、
新たな価値としてデザインし、
発信している事例を紹介
していきます。
DESIGN PUBLICを通して、
その事例の根底にある想いが伝わり、
世の中に広がっていくことを願っています。

INFORMATION

 
 
 

vol.01 Lux

点字プロダクトがつなぐ、見える世界と見えない世界。

点字を使ったモノが作れないか…考えついたのはうちわだった。作られたうちわは、白い紙に点が浮かび上がるだけのシンプルなもの。企画や制作には森さんに関わりのある数人が集まり、それぞれが本業としていることの力を出せるプロジェクトとなった。
作り上げたプロダクトが他の人にはどう映るのか。展示会“Lux”を京都のホテル アンテルームで企画し、人々に点字プロダクトや視覚障害者の世界を感じてもらおうと考えた。
うちわと額に飾られた点字が展示された。期間中、100個程用意したうちわは完売。好きな言葉を打ち込んでもらうワークショップも盛況で、協力した視覚障害を持つ横田さんは、普段コミュニケーションツールとして使っている点字がこのような商品となり、人々を引き寄せるものとなることに驚いたという。
森さんは、これまで点字自体をそう意識することはなかったが、たまたま手にした点字新聞の凹凸の美しさに何か可能性を感じたと話す。目が見える者にとっての点字は、それが視覚障害者のコミュニケーションツールとしてではなく、触感や視覚に訴えかけてくる何かおもしろいものに映る。目の見える者と見えない者、それぞれの生きている世界はもしかしたら違うのかもしれない。点字を通して森さんはそんなことを考え、点字やそれを使う障害者の世界に足を踏み入れた。

ドアさえあれば覗く気にはなるかもしれないぐらいのプロダクト。

出発地点はそんな大それたものではなかった。たまたまあるとき手にした点字新聞に引っかかりを感じ、さらに友人から「福祉施設で作るものが野暮ったいからなんとかしてくれ」と頼まれたことからプロジェクトは始まった。
芸術大出身でプランナーという職業柄、何かを作ったりすること自体はそれほど苦でなかったという。まず「日用品」であることにこだわった。人々の日常に入り込むことが大事だと考えたからだ。そうしたものの中で紙の質感をいかせ、手に触れるようなものとは何か。自然とうちわを思い付いた。
森さんたちはうちわを発表する場所や演出にもこだわった。マイノリティーの世界観を全面に出すのではない。自分たちには押し付けられることに対する抵抗感もある。だからといって、「かわいそうでしょ」というのでもない。そこで、ホテルという不特定多数が訪れる場所で、「異なる世界や価値観」を自然と受け入れられるような演出を心掛けた。そして点字や視覚障害の世界に関心を持つ人がいたら、次のステップとして好きな言葉を点字にしてもらうワークショップを用意した。「福祉の課題や現実を全て背負う覚悟や気負いはない。でも、良質なデザイン体験という入り口のドアがあれば、そこに入っていけるきっかけは作れるかもしれない」。そういうモノやこれまでにないコミュニケーションのあり方を提案したかった。

はじめからひっかかるボタンが良かったかもしれない。

実際にうちわを作ろうと思い立って、それをどう実現したのか。まず、うちわを作ってくれる職人さんを見つけ出した。でもそれ以外の部分では売る方法を考える人がいて、展示会の場所やコンセプトを企画する人もいて、次の展開のアイデアを構想する人がいた。それも各分野のプロフェッショナルによるコラボレーション。はじめからひっかかるボタンが良かったのかもしれない。
福祉畑の人たちにこんな人脈はほとんどない。なくったって何とかなるのかといえば、何とかなるのは少数のやはり「感度」の良い人たちで、その「感度」というものは福祉の世界ではあまり必要とされない。だとすればこうしたことを得意とする人たちの力を借りれば良いのだが、福祉の世界は開いているとは言い難い部分がある。実は森さんたちがどうしても繋がりきれなかったところがある。点字をコミュニケーションツールとする視覚障害者の団体だ。現場レベルでは個人的に賛同する職員はいても、それぞれの立場や垣根を越えて、今回のプロジェクトで連携するには少々時間が足りなかったという。
また、今回のプロジェクトには商品力を持たせるためプロデュースを行ったのはみんなプロの人たち。商品企画やその制作プロセスに視覚障害者が当事者としてどう関われるのか、そのあたりは迷ったという。そのためこれからも、障害者や障害者団体との関わりのあり方は模索していきたいと話す。どのようなやり方が見つかるのか、そこはぜひ知りたいと思う。

てんてんしかなくてわくわくしたおもしろさがないと続けられない。
おもしろいと思う人がやればいい。

Luxプロジェクトは、福祉業界の人からすると自分たちにはとてもマネできないと思えてしまうかもしれない。それは単に人脈やセンスや経験の差異だけではないと思う。
そもそも福祉業界の人たちは、商品開発をするとか、販売戦略を考えるとか、流通ルートを見つけ出すとか、そういったことにわくわくするだろうか。わくわくするという人もいるかもしれない。だけど目の前の現実を見つめると、とてもそうしたことに胸を躍らせ続けることはできないように思う。
障害者が毎日7時間作業をしても、1ヶ月の工賃(お給料とは言わない)は平均してわずか1万円とちょっと。社会に出て働くことのハードルは高く、日中を過ごす場は「福祉施設」に限られる。障害者に自由な選択肢は、実質的にない。それが福祉を職業とする者の前に立ちはだかる現実だ。
では、このプロジェクトの社会的意義とは一体何だろうか。
これによって誰かが救われるのだろうか。多くの障害者が職を得て、社会に出てふつうに暮らしていけるのだろうか。答えは否だと思うし、森さんもそこまで気張って取り組むことはしなかった。しかしLuxプロジェクトの社会的意義はそうしたことにはない。
このプロジェクトの意義は、それを「社会的意義」としてしまった途端に損なわれてしまうようにも思える。森さんは言う。「もう昔の価値観ではやっていけないと若い人たちは気付いていると思う。立身出世みたいなことはできないし、二酸化炭素をまき散らして車を乗り回すとかもできない。世の中全体がこれまでとは違う価値や周りと繋がる方法を探し始めていると思う」。これが肌身感覚なのだとしたら、自分たちが幸せに生きていける方法を探し求めること自体が、もうすでに社会貢献に繋がっているのかもしれない。それに気付くか気付かないか。森さんは初めて点字を手にしたとき、「てんてんしかなくてわくわくした」という。そしてこのプロジェクトを続けていくためには、その最初に感じたわくわく感を忘れることなく、おもしろいと思い続けられることが大事だと話す。このように、おもしろいと思い続けられること自体がこの社会での生きやすさに繋がっていくのだとしたら、わざわざ「社会的意義」とかそういう言葉を使う必要もなくなり、もしかすると障害者とか福祉とか、そういう言葉もいつしか消えてなくなるのかもしれない。

PROFILE

見るのではなく触って読む言葉、点字。そんな点字のおもしろさに気付き、
2011年より“Lux”プロジェクトとして点字を使ったプロダクト作りを始める。
見える者と見えない者の世界を交差するプロダクトとして、点字の紙でうちわを制作、
同時に展示会を開催。物作りやコミュニケーションの周辺を面白くするため活動中。

CREDIT

Lux(参加メンバー) |
森信也 印刷会社勤務 プランナー
永田宙郷 EXS Inc.代表 http://exs-inc.com/
松倉早星 ovaqe http://ovq.jp/
横田光春

WRITER PROFILE

井狩 恵
大阪生まれ。京都府立大学大学院公共政策学研究科を修了。公共政策学修士。
政策学や政治学を学ぶかたわら、家族に知的障害者がいることから障害学に没頭し、
障害者とは社会が作り出した存在であると考えるようになる。
知的や精神障害者の作業所、障害当事者が運営する自立生活センターを経験した後、
現在は、考えていることをカタチにするため(準備的に)活動中(執筆とフィールドワーク)。

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